施設・設備・体制

脊椎・脊髄センター

飛田 哲朗
脊椎外科部長
脊椎・脊髄センター長
飛田 哲朗

2023年、当院は脊椎・脊髄センターを開設しました。腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、頚椎症性脊髄症、脊椎圧迫骨折などの脊椎・脊髄の疾患に対する専門治療を行っています。地域の診療所と連携してリハビリや薬物治療による十分な保存治療を行います。保存治療の効果が得られない場合には、当センターでブロック注射、手術治療といった専門的治療を行います。2022年には170件、2023年には134件の脊椎手術を実施しました。
当センターでは、体への負担の少ない「低侵襲脊椎手術」に力を入れています。「脊椎内視鏡手術」や、受傷早期の脊椎圧迫骨折に対する「経皮的椎体形成術(BKP)」を実施しています。

腰椎椎間板ヘルニア

腰椎椎間板ヘルニアとは

椎間板は丈夫な線維輪の中に柔らかいゼリー状の髄核が詰まっている、いわば”座布団”のような構造で身体を支えてます。長年の負担や外力などで線維輪に傷が付き、柔らかい中身の髄核が飛び出します。これが 神経を圧迫し炎症を起こし腰痛や下肢の激痛を引き起こします。

腰椎椎間板ヘルニアの自然経過

基本的には自然治癒する病気 です。飛び出た椎間板は炎症を起こしていますが、徐々に自然吸収されて炎症はおさまり腰と脚の痛みが良くなります。 しかし、良くなるまでの期間は人により様々で、1ヶ月程度の方もいれば1年以上続く人もいます。腰椎椎間板ヘルニアの治療の目的は、早く痛みを減らして職場や家事などに復帰することです。

腰椎椎間板ヘルニアの治療の基本

治療の基本は手術をしない保存治療です。 一般の整形外科では安静、コルセット 、リハビリ、腰椎の牽引、内服薬などを行います。多くの場合は 一ヶ月程度で良くなります。
残念ながらこうした保存治療の効果が無い方や、疼痛が強く早期の治療が必要な方は、 専門外来(脊椎・脊髄センター)を受診する必要があります。

当センターで行う3つの専門治療。痛くない ブロック注射、椎間板酵素注入療法、内視鏡手術。

それぞれの方法にメリット、デメリットがあります。患者さんの希望にそった治療を行います。

「痛くない ブロック注射」日帰り治療

ブロック注射は神経の近くに 麻酔薬や抗炎症剤を注射する方法です。 神経根ブロックは、レントゲンで確認しながら神経の近くに注射することができるため、仙骨ブロックと比べてより効果が高く速攻性のある 方法です。
神経根ブロックの欠点として、従来は神経の位置を確認するために「わざと」神経に針を刺す必要があり、再現痛とよばれる激痛を起こす場合がありました。
当センターでは、局所麻酔をした上で、神経の解剖に熟知した専門医が 慎重に神経のそばの痛みを起こさない位置(椎間孔内硬膜外)に針をすすめて薬剤を注入します。痛みがないかつ高い効果の 神経根ブロックを実施します。
残念ながらブロック注射ではヘルニアそのものが無くなるわけではありません。そのために、注射の効果が無くなると痛みがぶり返す方もいます。その場合は他の治療法を行います。

「椎間板酵素注入療法」一泊二日入院

いわゆる「ヘルニアを溶かす薬」を、局所麻酔で椎間板に注射する治療法です。2018年に発売された新薬、ヘルニコア(R)(商品名コンドリアーゼ)を用います。限られた認定施設のみでしか実施できない専門性の高い治療です。当センター長はヘルニコア(R)の治験に関わった治験参加医師であり、豊富な使用経験があります。
ヘルニコア(R)は椎間板の柔らかいゼリー状の部分を化学的に溶解させ、ヘルニアの神経の圧迫を取り、神経の炎症と痛みが改善します。注射の直後に効果がある方もいれば、2−3週間かけて徐々に効果が出る方もいます。
椎間板酵素注入療法は低侵襲で効果は高く、7割程度の方に有効です。ただし、3割程度の方は効果が無く、手術など別の治療法が必要になります。ヘルニコア(R)はわずかながらにアレルギーの危険があるため、当センターでは一泊二日入院でより安全に実施します。

「内視鏡手術」5日間入院

当院では低侵襲脊椎手術として、内視鏡を用いたヘルニア摘出術を行っています。2022年には28例の内視鏡脊椎手術を実施しました。
内視鏡脊椎手術は、MED法(直径16mmの筒)とFED法(直径6mmの筒)を、個々の症例に合わせて術式を選択します。 (FED法は、 PED法,PELD法,FELD法とも呼ばれています。) 全例、全身麻酔で実施します。眠っている間に全ての治療を終えることができます。
手術治療は5日間の入院が必要ですが、最も早く確実に疼痛を取ることができる方法です。

脊椎圧迫骨折の治療法 BKP(椎体形成術)について

脊椎圧迫骨折とバルーン後弯形成術(BKP)について
脊椎圧迫骨折とは?

脊椎骨折は、せぼねの骨(椎体)が衝撃や負荷により骨折する状態です。脊椎は体を支え、脊髄神経を守る重要な構造であり、骨折すると激しい痛みや日常生活の制限を引き起こすことがあります。特に高齢者や骨粗鬆症の患者さんは、転倒や軽い外力でも脊椎骨折を起こす危険があります。

従来の治療方法(保存治療、手術治療)

保存治療は、必要に応じてコルセットを作成し、痛み止めやリハビリなどを行い、自然と骨折が治るの待つ方法です。多くの方は、1ヶ月程で症状が改善します。しかしながら骨のつきが悪い場合は、1ヶ月以上痛みが長く続くことや、しびれや神経痛といった神経の症状あります。疼痛が強く、歩くことが難しい場合は入院が必要になったり、動けない期間に体力、筋力が衰えて骨折が治ったあとでも寝たきりになる危険があります。
疼痛が長く残ってしまった場合には、従来は固定術と呼ぶ、骨をボルトで固定する比較的大きな手術を行う必要がありました。ご高齢の方には身体への負担が大きく、合併症の危険がありました。

バルーンを用いた椎体形成術(BKP)とは?

椎体形成術(Balloon Kyphoplasty, BKP)は、脊椎骨折の治療法の一つです。比較的簡便な手術を行うことで、脊椎の圧迫骨折により生じた痛みをすぐに軽減し、骨の安定性を回復させることを目的としています。

椎体形成術(BKP)の手順

  • 1.バルーンの挿入: 手術は全身麻酔のもとで行われます。せなかに5mmほどの傷を2か所のみで手術を行います。レントゲンで確認しながら骨折した椎体に針を挿入し、その先端にバルーンを配置します。
  • 2.骨折椎体の整復: バルーンをゆっくり膨らませることで、つぶれた椎体を持ち上げ、本来の高さに戻します。
  • 3.セメント注入: バルーンを縮めた後、その空間に医療用の骨セメントを注入し、骨を固めます。骨セメントは歯科治療の際の詰め物と同等の素材で、数分間で固まります。これにより、手術の直後から骨の安定性が増し、痛みが軽減されます。
椎体形成術(BKP)の利点
  • ・痛みの迅速な軽減: 手術後すぐに痛みが軽減します。
  • ・早期の回復: 手術は通常15分前後、麻酔を含めて1時間ほどで終了し、多くの患者さんは翌日には歩行を開始します
早期BKP手術

従来は骨折を起こしてから数ヶ月たってから痛みの残る方に限って手術をすることが一般的でした。手術を行う場合でも、疼痛を受ける期間が長くなり、苦痛と体力の衰えが起きることが問題でした。
最近は、手術の効果と安全性が判明してきたために、骨折を起こしてからなるべく早く手術を行なう「早期BKP手術」が広まりつつあります(参考文献1)。
当院では、入院してから1週間以内の「早期BKP手術」を行なうことで、患者さんの痛みを早く取り除き、寝たきりになることを防ぐ治療を行っています。日本からのみならず、世界から注目されている最先端の治療法です(参考文献2,3)。

注意点とリスク

BKPは比較的安全な手術ですが、他の外科手術と同様にリスクが伴います。セメントの漏れ、神経への損傷などが考えられるため、医師と十分な相談が必要です。BKPの手術は専門の資格を持った医師が、認定を受けた限られた施設でのみ実施可能です。
当院は、脊椎外科専門医向けにBKPの技術指導と資格認定を行なうBKPトレーナー在籍施設です(注)。
脊椎骨折やBKPについての詳細は、ぜひ専門医にご相談ください。

参考文献1: 腰椎圧迫骨折になるべく早く経皮的椎体形成術(BKP)を行うと成績が良い
“Early versus delayed kyphoplasty for thoracolumbar osteoporotic vertebral fractures: The effect of timing on clinical and radiographic outcomes and subsequent compression fractures” Minamide, et al. Clin Neurol Neurosurg. 2018
参考文献2: 「骨粗鬆症性脊椎骨折に対する早期balloon kyphoplasty」第13回最小侵襲脊椎治療学会. 飛田哲朗
参考文献3: “Early balloon kyphoplasty for acute osteoporotic vertebral fracture” Society for Minimally Invasive Spine Surgery AP Annual Meeting 2024. T. Hida
注:日本脊椎脊髄病学会、日本脊椎外科学会、日本エム・ディ・エム認定 Baloon Kyphoplasty Trainer 飛田 哲朗 2022年9月11日認定
担当医師
飛田 哲朗
飛田 哲朗
役職
脊椎外科部長
脊椎・脊髄センター長
略歴
平成15年 中部労災病院
平成19年 国立長寿医療研究センター
平成23年 名古屋大学医学部附属病院
平成29年 San Diego Spine Foundation
平成30年 名古屋第二赤十字病院
指導医/専門医/認定医
[指導医]
日本脊椎脊髄病学会認定 脊椎脊髄外科指導医
[専門医]
日本脊椎脊髄病学会・日本脊髄外科学会認定 脊椎脊髄外科専門医
日本整形外科学会認定 整形外科専門医
日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医
[資格]
身体障害者福祉法指定医
愛知県難病指定医
医学博士
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